ラボ開設の趣旨説明
・「心理・行動フォーサイトラボ」は、大阪大学大学院人間科学研究科付属未来共創センターの新たなプロジェクトとして開設。(※未来共創センター…人間科学研究科は、従来学際や地域連携を重視してきた。未来共創センターはその具現化、実践の場。大学と社会のつなぎ目となり、ともにあるべき未来を考えるという趣旨)
・心理学で提示されてきた人間の行動に関する気づき(=インサイト)を、未来の私たちの行動をよりよいものにしていくために活用できないか。社会の中でそうした実践の試みをしている方々とともに、「インサイトをフォーサイトに結びつけるにはどうしたらいいか」を考える。
・心理学者だけでは「わかってはいるけどなかなかできなかった」ことに挑戦する。
話題提供
平井 ~心理学とマーケティングをどう繋げていくか
・ラボでは、心理学がどのように役立ち、社会実装の根本的なところにどう使っていくのかを考えたい。
・マーケティングにおいて、対象者を知ることは重要。マーケターのインタビューは心理カウンセラーのインタビューと似ており、その関心は「その人たちは何を考え、どう感じるか?(インサイト)」にある。
・マーケティングでは、インサイトはインタビュー調査で見つけることになっている。しかしインサイトにあたることは多くの場合言語化されていないので、それを聞き出すためには何か言語化のきっかけが必要 → 仮説が必要 → 心理学・行動学の理論が必要。ボトムアップでインサイトを探るより、理論を用いたほうが説明もつくしより早くインサイトにたどり着ける。
・心理学者の一番のやるべきことは、インサイトを言語化・可視化すること。
・しかし、心理学とマーケティングがあまり結びついていない。どうつなげていくか・学術的な考え方や方法に基づいたインサイトの見つけ方をどう学ぶか、教えるかに関心あり。
小松 ~オンライン心理学への期待
・ラボでは、オンライン心理学に対する考察を見出すことを期待。
・オンライン心理学…直接対面状況と違って、物理的には1人の人間しかいない場合もある。画面の向こう側の不特定多数(同時、時差)。自分が「見られていない」感覚、匿名性。
・社会心理学と何が共通していて何が異なる?同調、集団の極化はある?オンライン独特の現象は?
齋藤 ~ものづくりにおける人間科学の知見の有用性
・研究所では、5年先にどのような技術・製品が必要になるのか考えて仕事をしていることもあり、ラボの「フォーサイト」志向に惹かれた。
・研究所では、機能を実現させる技術を生み出すことに力が注がれており、実際に人はその機械をどのように使うのか、どの様に対峙するのかということは疎かにされがち。そこで人間科学の知見を持った人が活躍できると思う。
・製品が出た後の体験価値まで見越すことが大切。
三浦 ~インサイトの脆弱性問題と開拓的な心理学研究の必要性
・今までの研究から見えてきたインサイト:何かについて新しいアイディアを複数人で考えるとき、対象についての共通の関心・多様な角度からの考え方が揃ったときに最も創造性が高くなる。→ラボはそのような場
・実験室に閉じこもっていてはインサイトをフォーサイトに繋げられないだろう→社会現象に直に触るようなデータを扱うことが重要。整えられたデータも荒削りな(生活に近い)データもどちらもあっていいのでは。後者のほうが企業の興味も引けそう。
・しかし、心理学のインサイトは再現性が低い。社会心理学全体に適用される前提や理論がなく、分野ごとに発見が蓄積されてきたので、多角的な理論が存在している(是?否?)。反証可能性が担保されていない。→中途半端なインサイトを提供することになるかも。
・再現性問題に取り組むことと開拓的な心理学研究の実践は密接不可分。
・心理学研究のインサイトは、フォーサイトに結びつけられるほど強固なのか?強固さをどうやって確保していくのか?インサイトの脆弱可能性について意識的でありたい。